「弁護士は労働時間が長く、ワークライフバランスを取ることができない職業だ。」
このような考え方は、現在も多くの弁護士の標準的な理解になっていると思います。
本記事では、弁護士の実際の労働状況を検討した上で、弁護士が転職によってワークライフバランスを取れる可能性があるのかを検討します。
弁護士の労働状況
弁護士の労働状況を伺う上で有益な資料が、日本弁護士連合会が公表している弁護士白書の過去の特集「近年の弁護士の実勢について(弁護士実勢調査と事件動向調査を元に)」です。
弁護士を対象に2018年におこなわれた「弁護士実勢調査」の回答結果から得られた情報が整理されています。
こちらの資料によれば、弁護士の1週間の平均労働時間については、41時間から50時間と回答した人が27.9%、51時間から60時間と回答した人が23.7%、61時間から70時間と回答した人が11.3%、71時間以上を回答した人が6%となっています。約4割の人が週に51時間以上は働いていることがわかります。
8時間労働を5日続けた場合の労働時間が40時間になることからすれば、比較的長時間労働が常態化していると評価できます。
弁護士の多くは個人事業主として業務委託の形態で働いており、働いた時間に応じて報酬が得られる仕組みになっていることから、このような長時間労働の常態化が生じやすいのかもしれません。
弁護士は業種として、ワークライフバランスを実現するのが困難な職業と言えるかもしれませんね
転職とワークライフバランス
では弁護士は転職によってワークライフバランスを実現することができるのでしょうか。
法律事務所から法律事務所への移転と、法律事務所から企業への移転とを分けて検討します。
法律事務所から法律事務所への移転
現在の法律事務所が激務であるという理由で他の法律事務所に移ったとしても、上記のように弁護士業界全体が長時間労働の傾向にあることから、ワークライフバランスを実現できない可能性が高いとも考えられます。
もっとも、転職によって物理的な長時間労働は変えられないとしても、精神的な負担を軽減できる可能性はあります。
精神的な負担を軽減できれば、物理的には長時間労働であっても仕事以外の時間を活き活きした気持ちで過ごすことができ、充実させられるかもしれません。
具体的には「長期間のプロジェクト単位での仕事が多い法律事務所」から「短期間のタスク単位での仕事が多い法律事務所」に移転することや、その逆が考えられます。
長期間のプロジェクト単位での仕事が多い法律事務所では、アサインされているプロジェクトが佳境を迎えると、非常に忙しくなります。その期間は徹夜が連続する可能性もあります。寝られたとしても数時間という日々が続く可能性があります。
他方で、アサインされているプロジェクトが終了すると、次のプロジェクトが佳境を迎えるまで、少しの時間的余裕が生じます。
これに対し、短期間のタスク単位での仕事が多い法律事務所では、抱えているタスクの量が多くなる傾向にあり、その納期は短くなる傾向にあります。そのため、仕事に追われている状況が継続的に続くことになります。
他方で、長期間のプロジェクトが佳境を迎えた時ほどの忙しさを体験する可能性は低いと思います(もちろんケースバイケースになるとは思います。)。
また、仕事量に波がないため、生活のリズムを作ることができます。
この2つの仕事内容から受ける精神的負担は人によって異なると思いますので、自分にあった仕事内容に従事できる事務所に転職することで、仕事以外の時間を充実させられるかもしれません。
法律事務所から企業への移転
上記のように基本的に長時間労働が常態化している法律事務所と異なり、雇用契約の形で仕事に従事することの多い企業にインハウスロイヤーとして入ることは、その弁護士にとって、ワークライフの実現に寄与することが多いです。
雇用契約の形で仕事に従事することで、労働法に守られる形になるためです。
インハウスロイヤーのワークライフバランスについては、次の項目で検討します。
インハウスロイヤーとワークライフバランス
インハウスロイヤーはワークライフバランスを実現しやすいと言われます。
実際、組織内弁護士協会(JILA)が実施したアンケート結果では、次のようなデータがあります。
インハウスローヤーと土日出勤
まず、インハウスロイヤーとして勤務する弁護士に土日・祝日における出勤の有無を尋ねた際の回答は次の通りとされています。
選択肢 | 割合 |
ほとんどない | 83% |
月に1日〜2日程度 | 14% |
月に3日〜5日程度 | 3% |
土日祝日もほとんど出勤している | 0% |
インハウスロイヤーと平均労働時間
次に、インハウスロイヤーとして勤務する弁護士に1日の平均的な労働時間を尋ねた際の回答は次の通りとされています。
選択肢 | 割合 |
8時間未満 | 13% |
8時間から9時間 | 38% |
9時間から10時間 | 28% |
10時間から12時間 | 19% |
12時間から14時間 | 2% |
14時間以上 | 0% |
土日祝日の出勤状況と合わせて考えると、8割の弁護士の労働時間は週50時間を切っていることになります。
インハウスロイヤーとして勤務する弁護士は実際にワークライフバランスを実現しやすい傾向にあると考えられます。
どうすればインハウスロイヤーになれるか
上記の通り、法律事務所から法律事務所への転職によってワークライフバランスを実現できる可能性が低い一方で、インハウスロイヤーに転職できれば、ワークライフバランスを実現できる可能性が高いと考えられます。
ではインハウスロイヤーに転職するためには、どうすれば良いのでしょうか。
インハウスロイヤーへの転職に強い転職エージェントを頼るのが最も良いと考えます。
有名どころですと、 MS-Agentや 弁護士ドットコムキャリア が挙げられると思います。
本記事が転職によってワークライフバランスを実現しようとする弁護士の参考となることを願っています。